生産者STORY
- 内堀醸造STORY
- 内堀醸造は、酢の専業メーカー

- 創業は明治9年

- 「内堀さんの酢は味が変わる」で発奮

- 「酢造りは酒造りから」

米酢の場合、まずお米から日本酒をつくり、その日本酒をさらに酢酸発酵させて米酢にするという段階を踏みます。酢メーカーごとに、いろいろなつくり方があるそうですが、内堀醸造では、まず酒をつくり、その酒から酢をつくるというように工程を分けています。
前段階の酒づくりも、昔ながらの工程で行なっています。たとえば、多段仕込みを頑固に守っています。
まず蒸した米に麹を加え醗酵させます。これは「酒母(しゅぼ)」といい、最終量に比べ、わずかな量です。それに「添え」「仲(なか)」「留(とめ)」と、多段階に蒸した米を足していきます。こうして、多段階に量を増やしていくのです。
業務用として、醸造アルコールを買ってきて、それを酢にするという安価なものもつくってはいますが、いい酒からいい酢をつくるという基本理念は変えません。
一例として、精米機を導入して、自社で精米し、精米率により酒の味を変えたり、さまざまな試みをしています。
「酢のメーカーで、自社で精米しているところは、あんまりないと思います」(芝田さん)
- つねに同じ味をつくる努力

確かに甕でつくるのものもあります。静置発酵といい、文字どおり、そのまま置いて酢酸発酵させるものです。一方、内堀醸造は通気発酵という、空気を送り込んで発酵を促す方式で酢をつくっています。
甕がずらっと並んでいる光景と比較すると、内堀醸造の本社工場もアルプス工場も化学プラントのような、一大装置産業に見えます。
なぜ、内堀醸造は、通気発酵を選んだのでしょう。
「甕の方式が悪いとは言わないし、否定もしません。でも、音楽で例えると、ライブがいいという人がいる一方で、レコードやCDがいいという人もいる。ライブは、その日によって出来、不出来がありますからね」(浅川さん)
内堀醸造では、酢酸発酵の過程はタンクのなかで行なっているので、その工程は目では見えません。そこで、担当者は、数値を見てモニターするだけでなく、香りも手掛かりに酢の状態を判断。温度管理、餌であるアルコールの管理をし、空気量などを調節して、つねに同じ味をつくるように努力しています。
「いつ買っても同じ品質というところを、お客さんは評価してくださると私たちは考えています。そのためにも、新しい技術は積極的に取り入れていこうと思います。私たちが酢づくりに努力して、味を変えたり、いろいろ試すのと同じように、機械メーカーさん、設備メーカーさんも、いいものをつくるように日々努力しているはずなので、技術革新は積極的に取り入れていこうと考えています」と浅川さん。
「ただ、変えてはいけない手法、製法は守っていくのが大原則です」と浅川さんは結びました。
- 酢造りにとっていい酒とは

「それは、お酢から見て、いいお酒ということです」と、浅川和也さん(総務部課長)
米の旨み、麹の旨み、それがどれだけあるかというのがいいお酢になるお酒の条件で、これを満たすのは、どちらかと言えば甘酒に近いものだそうです。辛口の日本酒よりも、まったり、こってりしたお酒をつくり、そこからお酢をつくるといいものができると浅川さんはおっしゃいます。
日本酒には、吟醸、大吟醸というランクがあり、これは、お米をどれだけ研ぐか、つまり精米度合いにより分けられています。内堀醸造では、精米された米を買って酒をつくるよりも、自分たちで精米したほうがいいのではないかということで、精米機も導入しました。
いろいろと実験を繰り返し、実際に吟醸酒をつくり、そこからお酢をつくったときもありました。「正直言って、そのときは売上が落ちました(笑)」(浅川さん)
また、コシヒカリを吟醸クラスまで精米し、それを使って酢をつくるという、ぜいたくな実験もしましたが、結果としてはあまり差が出なかったといいます。
- それぞれの設備で細かな工夫

そのなかでも、内堀醸造の皆さんは、いい酢をつくるために、それぞれの設備で細かな工夫を重ねています。その一例として、発酵機(酒造り用)の攪拌翼のお話を、総務部課長の浅川和也さんがしてくださいました。
通常、攪拌翼は、プロペラのような形状です。当初は、そのまま使っていましたが、これを回転させると、どうもうまくない。お米がつぶれてしまう。
いまは、攪拌翼は戸板のような形になっています。
おかゆをつくるときに、お婆さんは、しゃもじでかき混ぜます。これは、米をつぶさずに、米の旨みを出すためという生活の知恵でしょう。そこで、戸板のような形の攪拌翼にしてみました。
「これで、どれだけ変わるか。正直なところ、ほんの少しだろうとは思います」(浅川さん)
「それでも、これが、こだわり、哲学ということだと思います」と浅川さんは続けました。米の雑味を出さず、米の旨みだけを出せないかというこだわりのひとつとして、現在はこういった攪拌翼を持つ発酵機になっています。
また、本社工場にもアルプス工場にも、蒸留機があります。
蒸留酒、乙類の焼酎からつくる酢は、また口当たりも違うのではないかということで、蒸留器を入れたそうです。
「お酒をつくって酢をつくるわけで、だったら、たとえばブランデーから酢はできないのかとか、焼酎から酢はできないのかとか、そういうことから試しています」(浅川さん)
蒸留器を入れるときには、ちょっとした苦労もありました。それは、酒税法の関係で、税務署からなかなか許可が下りなかったことです。そこで、蒸留器には、わざわざお酒をつくりにくくする工夫までしているとのこと。
せっかく蒸留器を入れても(?)、お酒の製造はできません。酢をつくるためのもろみ製造免許しかなく、酒販免許がないからです。ちょっと残念ですね。
- エンジョイ・ビネガー(酢を楽しむ)を提案

お酢が苦手という人が、結構いらっしゃいます。
酢が苦手なのは、実は当たり前のことなのだそうです。腐敗と発酵は紙一重だからです。腐敗したものを食べると最悪死んでしまうので、酸っぱいものは吐き出すというのが本能です。これは、体の防衛本能ですので、酢が嫌いなお子さんが多いのは、当たり前のことになります。
そのため、「酢は、学習する調味料」と言われるそうです。
「ただ、酢が苦手な人が多いにもかかわらず、『さしすせそ』と言われるように、基礎調味料として残っているのは、私たちの食生活に、やはり切っても切れない必要性があったのだと思います」と浅川和也さん(総務部課長)
「学習する調味料」というところに着目して、内堀醸造では、オークスハート事業部という独自ブランドで、直営店として酢のカフェを展開しています。
「酢は飲むことで広まった市場もあり、学習する調味料ということもあるので、まず楽しんで、酢を好きになっていただきたい。また、酢をとる機会を増やすことによって、生活のなかに酢を浸透させていきたい。そのためには、より身近な、デザート、スィーツから提案したほうが親しんでいただけるのではないか。飲む酢を楽しんでいただいたり、デザートビネガーをヨーグルト、アイスクリームにかけていただいたり、パンにつけていただいたり、そういったかたちでの提案をしていきたいと考えています」(浅川さん)
- フルーツビネガーでは、パイオニア的な存在

いまから10年くらい前、飲む酢のブームがありました。まず、りんご酢ブームがあり、次に黒酢のブームがやって来ました。ところが、酢は身体にいいと言われても、決して飲みやすいものではなく、なかなか続きません。そこで、健康食品メーカーなどでは、粉末にしたり、カプセルにしたりした例もあったようです。
「自分たちは酢屋なので、発想の転換というか、酢酸発酵はするものの、果汁感のある状態は残しておいて、果汁を足し、調味酢のようなものにしたらどうかと考えたんです」(浅川さん)
内堀醸造は、糖分を酒にする技術、酒を酢にする技術を持っています。そこで、りんご、ぶどう、ラズベリーなど果汁由来の酒をまずつくり、それを酢にして、さらに果汁を加えたらどうかと考え、つくってみたのがフルーツビネガーです。
それにいろいろな味を加えていったものが、内堀醸造のオークスハートのデザートビネガーです。旬をキーワードにして、いちごの酢、ジューシーマンゴーの酢、さくらんぼの酢などをつくっています。
フルーツビネガー、デザートビネガーに関しては、内堀醸造は業界のパイオニア的な存在であるというイメージを持っていただいているようですと、誇らしげな浅川さんです。
- 私たちは微生物とともに仕事をしている

- 仕込み水も殺菌していません

工場は標高740メートルです。標高740メートルのところにある酢の工場は、珍しいですよ。
工場を建ててから、長野県庁の方が来て「よく来てくれましたね。この水は、長野県の地域資源ですよ」と言うんですね。私たちは、ここに土地を買って、工場をつくってから、いい水が出るということに気がついた。本当に、私たちは、いい出会いに恵まれていると思います。
水というのは、とてもむずかしいものなんです。
ある地域に行くと、水に鉄分が含まれている。ある地域では、水量は豊かでも水質が気になる。別の地域では、深く掘ると温泉が出てしまう。山に恵まれた長野県でも、そうです。
この部屋から見える範囲は、ぜんぶうちの土地です。これ、気持ちいいんで、もう一回くらい言いたいんですけど(笑)。南駒ケ岳の伏流水が流れている。うちより上流には工場はありません。
だから、杉江(アルプス工場工場長・杉江毅さん)の考えもあって、水は殺菌しません。仕込み水も殺菌していません。
本社工場のある八百津もいいところですけれども、山がない。ここは、すぐそこに3000メートル級の山がある。大きな山があると、その山の神に助けられると実感しますね。
私たちは、より高度、高品質なものをつくってきたつもりだし、明日からもそれに向かっていくつもりです。これは、約束できます。2011年は、多分皆さんが、ほほーっと思うものを紹介していきます。皆さんが納得してくれれば、はじめて、きちんとお話しができることになるでしょう。
そうなれればうれしいね。
(談)
- だれがつくっているのかが一番大事

もちろんそちらへお邪魔して、一生懸命説明することもいいんですけど、だれがつくっているのかというのが一番大事なことだと思うんです。それには工場に来ていただいて、工場長にも会っていただいて、「あれか。まあ、いいかな」(笑)と思っていただければうれしいなと思います。
これからご縁が始まると思うので、私や、杉江(アルプス工場工場長 杉江毅さん)や芝田(営業部・芝田直幸さん)が、この場所で働いているというのを、なんとか紹介していただきたい。
私たち人間は、自然の環境のなかで生きている。私たちには私たちの風土があり、その風土のなかで生かされていて、風土の力を資本というか、土台としてがんばっている。そこをなんとか紹介していただければ、うれしいです。
私たちは、微生物とともに生きています。そもそも人間もそうですが、とくに醸造業の人間は、明けても暮れても微生物とともに生きています。
工場には、顕微鏡で発酵を管理している部署があります。醸造業というのは、何百年も前から、こうやって、手でかき混ぜたりしてやってきましたが、アルプス工場では、木の桶は使っていません。木の桶にもいいところがあるんだけれども、ちょっとどうかなという点もあって、発酵は衛生的にやるほうがいいと思っています。
衛生的にやると、なにがいいかというと、微生物が変化するんです。これ、非常におもしろいです。微生物も、人間と一緒で、いい微生物がどんどん集まるようになる。商売と一緒、商売もいい取引先が集まると、どんどんよくなっていくでしょ。
ただ、熟成は、木の樽を使ったり、ガラスの容器を使ったりします。
これから、杉江が工場をご案内しますけれども、私、会長ということもありますんで、歓迎のご挨拶だけして、言いたいことだけを言って、ほどほどのところで失礼するというのが会長の役割ということで(笑)。
(談)
- 素晴らしい環境と、それを維持する努力

- 「水 空気 微生物」

- ぼくは、内堀会長に惚れたんです





