生産者STORY

 
内堀醸造STORY
 
水と空気と微生物。最高の環境が生み出す、こだわりの酢
内堀醸造株式会社 会長 内堀信吾さんに聞く
 
内堀醸造は、酢の専業メーカー
 
内堀醸造は、酢の専業メーカー
ジェルメロードで現在ご提供している内堀醸造の製品は、次の3点です。
・北海道ゆめぴりか純米酢
 北海道産ゆめぴりかを100%使用した純米酢です。
・フルーツビネガー黒酢とざくろの酢
 自社で発酵させた黒酢、ざくろ酢、ローズヒップ酢、りんご酢に果汁を加えました。
・フルーツビネガー白ぶどうの酢
 自社で果汁を発酵させて造ったぶどう酢に、マスカットなどの3種の果汁を加えました。

 
創業は明治9年
 
創業は明治9年
内堀醸造は明治9年、現在本社のある岐阜県加茂郡八百津町で創業しました。
山の中なのに地名に津がついているのは、昔は水運が栄えており、大きな木を切り出してここで筏を組み、川下に運んでいたからです。男衆が大勢集まってきたので、酒造りが盛んで、酒蔵も多かったそうです。当時のにぎわいが浮かんでくるようなお話しです。
内堀醸造は、現在「本宅」と呼ばれている江戸時代の大商家のような建物で、味噌、醤油、塩などを扱う、よろず屋的な商売を営んでいました。
酢の醸造一本に絞ろうと決意したのは現会長の代でした。その後は酢造りひと筋、酢の専業メーカーとしてやってきました。
「酢のメーカーは、かつて日本に3000社あると言われていましたが、現在は10社程度です」と言うのは、営業部の芝田直幸さん。
 
ところで、内堀醸造では、本社工場(岐阜県加茂郡八百津町)と最新鋭のアルプス工場(長野県上伊那郡飯島町)のふたつの工場が稼動しています。
「おおまかに言えば、本社工場では小回りが利く商品、アルプス工場ではロットの大きな商品というように大別できます」(芝田さん)

 
「内堀さんの酢は味が変わる」で発奮
 
「内堀さんの酢は味が変わる」で発奮
若き日の内堀会長は、味噌、醤油、塩などを扱うよろず屋的な家業を、酢の醸造販売専業に転換。オート三輪で売り歩いていましたが、お客さんから、「内堀さんのところの酢は、おいしいんだけれど、味が変わる。今回は、香りはいいけど、味は前のほうがよい」といった声をよく聞かされました。
そういう声を聞くにつけ、内堀会長は、いつも同じ味の商品をつくれないものかと考え続けたそうです。
「そんななかで、会長はドイツの機械を知りました。タンクのなかで温度等を管理し、発酵を進める装置でしたが、思い切って導入しました。価格も高いし、それまで日本ではやったところもないので、導入にはかなりの勇気がいったと、いまでも会長は言っています」と総務部課長の浅川和也さん。
幸いなことに導入は成功し、その結果として、各工程の管理が容易になり、いつでも同じ品質のものをお届けすることができるようになりました。
内堀醸造が、「本宅」から本社工場(岐阜県加茂郡八百津町)に移ったときのことでした。
本宅は、創業の明治9年をさらに遡る風格のある大商家です。この本宅時代は、まずお酒をつくって、お風呂のような大きな箱に移し、酢酸菌を植え付ける方式でした。静置発酵方式というやり方です。
酢酸菌は空気と触れて、アルコールを餌に酢酸をつくります。表面に厚い膜ができ、その部分でのみ発酵が進むので、できるだけ表面積が広く、浅い桶でつくるのが昔の酢造りでした。ところが、この方法だと、気温や湿度に左右され、品質にぶれができてしまいます。
それに対して、ドイツから導入した装置は通気発酵という、醗酵槽に空気を通し、醗酵を進める方式でした。

 
「酢造りは酒造りから」
 
「酢造りは酒造りから」
「よい酢は、よい酒からつくられると、内堀醸造では考えています。『酢造りは酒造りから』は、内堀醸造の基本理念です」(営業部・芝田直幸さん)
米酢の場合、まずお米から日本酒をつくり、その日本酒をさらに酢酸発酵させて米酢にするという段階を踏みます。酢メーカーごとに、いろいろなつくり方があるそうですが、内堀醸造では、まず酒をつくり、その酒から酢をつくるというように工程を分けています。
前段階の酒づくりも、昔ながらの工程で行なっています。たとえば、多段仕込みを頑固に守っています。
まず蒸した米に麹を加え醗酵させます。これは「酒母(しゅぼ)」といい、最終量に比べ、わずかな量です。それに「添え」「仲(なか)」「留(とめ)」と、多段階に蒸した米を足していきます。こうして、多段階に量を増やしていくのです。
業務用として、醸造アルコールを買ってきて、それを酢にするという安価なものもつくってはいますが、いい酒からいい酢をつくるという基本理念は変えません。
一例として、精米機を導入して、自社で精米し、精米率により酒の味を変えたり、さまざまな試みをしています。
「酢のメーカーで、自社で精米しているところは、あんまりないと思います」(芝田さん)

 
つねに同じ味をつくる努力
 
つねに同じ味をつくる努力
甕(かめ)でつくる酢が一時ブームになりました。それを覚えている人も多いので、「お酢って、甕でつくるんでしょ」と浅川和也さん(総務部課長)もよく聞かれるそうです。
確かに甕でつくるのものもあります。静置発酵といい、文字どおり、そのまま置いて酢酸発酵させるものです。一方、内堀醸造は通気発酵という、空気を送り込んで発酵を促す方式で酢をつくっています。
甕がずらっと並んでいる光景と比較すると、内堀醸造の本社工場もアルプス工場も化学プラントのような、一大装置産業に見えます。
なぜ、内堀醸造は、通気発酵を選んだのでしょう。
「甕の方式が悪いとは言わないし、否定もしません。でも、音楽で例えると、ライブがいいという人がいる一方で、レコードやCDがいいという人もいる。ライブは、その日によって出来、不出来がありますからね」(浅川さん)
内堀醸造では、酢酸発酵の過程はタンクのなかで行なっているので、その工程は目では見えません。そこで、担当者は、数値を見てモニターするだけでなく、香りも手掛かりに酢の状態を判断。温度管理、餌であるアルコールの管理をし、空気量などを調節して、つねに同じ味をつくるように努力しています。
「いつ買っても同じ品質というところを、お客さんは評価してくださると私たちは考えています。そのためにも、新しい技術は積極的に取り入れていこうと思います。私たちが酢づくりに努力して、味を変えたり、いろいろ試すのと同じように、機械メーカーさん、設備メーカーさんも、いいものをつくるように日々努力しているはずなので、技術革新は積極的に取り入れていこうと考えています」と浅川さん。
「ただ、変えてはいけない手法、製法は守っていくのが大原則です」と浅川さんは結びました。

 
酢造りにとっていい酒とは
 
酢造りにとっていい酒とは
お酒用のお米として、山田錦が有名です。ところが、山田錦は炊いて食べても、あまりおいしくないと言われています。同じように、いいお酢をつくるためのいいお酒とは、飲んでもおいしいお酒なのか、それとも、お酢から見ていいお酒という意味なのかを質問してみました。
「それは、お酢から見て、いいお酒ということです」と、浅川和也さん(総務部課長)
米の旨み、麹の旨み、それがどれだけあるかというのがいいお酢になるお酒の条件で、これを満たすのは、どちらかと言えば甘酒に近いものだそうです。辛口の日本酒よりも、まったり、こってりしたお酒をつくり、そこからお酢をつくるといいものができると浅川さんはおっしゃいます。
日本酒には、吟醸、大吟醸というランクがあり、これは、お米をどれだけ研ぐか、つまり精米度合いにより分けられています。内堀醸造では、精米された米を買って酒をつくるよりも、自分たちで精米したほうがいいのではないかということで、精米機も導入しました。
いろいろと実験を繰り返し、実際に吟醸酒をつくり、そこからお酢をつくったときもありました。「正直言って、そのときは売上が落ちました(笑)」(浅川さん)
また、コシヒカリを吟醸クラスまで精米し、それを使って酢をつくるという、ぜいたくな実験もしましたが、結果としてはあまり差が出なかったといいます。

 
それぞれの設備で細かな工夫
 
それぞれの設備で細かな工夫
本社工場にしても、アルプス工場にしても、内堀醸造の工場は、化学プラントのような一大装置産業の観があります。
そのなかでも、内堀醸造の皆さんは、いい酢をつくるために、それぞれの設備で細かな工夫を重ねています。その一例として、発酵機(酒造り用)の攪拌翼のお話を、総務部課長の浅川和也さんがしてくださいました。
通常、攪拌翼は、プロペラのような形状です。当初は、そのまま使っていましたが、これを回転させると、どうもうまくない。お米がつぶれてしまう。
いまは、攪拌翼は戸板のような形になっています。
おかゆをつくるときに、お婆さんは、しゃもじでかき混ぜます。これは、米をつぶさずに、米の旨みを出すためという生活の知恵でしょう。そこで、戸板のような形の攪拌翼にしてみました。
「これで、どれだけ変わるか。正直なところ、ほんの少しだろうとは思います」(浅川さん)
「それでも、これが、こだわり、哲学ということだと思います」と浅川さんは続けました。米の雑味を出さず、米の旨みだけを出せないかというこだわりのひとつとして、現在はこういった攪拌翼を持つ発酵機になっています。
また、本社工場にもアルプス工場にも、蒸留機があります。
蒸留酒、乙類の焼酎からつくる酢は、また口当たりも違うのではないかということで、蒸留器を入れたそうです。
「お酒をつくって酢をつくるわけで、だったら、たとえばブランデーから酢はできないのかとか、焼酎から酢はできないのかとか、そういうことから試しています」(浅川さん)
蒸留器を入れるときには、ちょっとした苦労もありました。それは、酒税法の関係で、税務署からなかなか許可が下りなかったことです。そこで、蒸留器には、わざわざお酒をつくりにくくする工夫までしているとのこと。
せっかく蒸留器を入れても(?)、お酒の製造はできません。酢をつくるためのもろみ製造免許しかなく、酒販免許がないからです。ちょっと残念ですね。

 
エンジョイ・ビネガー(酢を楽しむ)を提案
 
エンジョイ・ビネガー(酢を楽しむ)を提案

お酢が苦手という人が、結構いらっしゃいます。
酢が苦手なのは、実は当たり前のことなのだそうです。腐敗と発酵は紙一重だからです。腐敗したものを食べると最悪死んでしまうので、酸っぱいものは吐き出すというのが本能です。これは、体の防衛本能ですので、酢が嫌いなお子さんが多いのは、当たり前のことになります。
そのため、「酢は、学習する調味料」と言われるそうです。
「ただ、酢が苦手な人が多いにもかかわらず、『さしすせそ』と言われるように、基礎調味料として残っているのは、私たちの食生活に、やはり切っても切れない必要性があったのだと思います」と浅川和也さん(総務部課長)

「学習する調味料」というところに着目して、内堀醸造では、オークスハート事業部という独自ブランドで、直営店として酢のカフェを展開しています。
「酢は飲むことで広まった市場もあり、学習する調味料ということもあるので、まず楽しんで、酢を好きになっていただきたい。また、酢をとる機会を増やすことによって、生活のなかに酢を浸透させていきたい。そのためには、より身近な、デザート、スィーツから提案したほうが親しんでいただけるのではないか。飲む酢を楽しんでいただいたり、デザートビネガーをヨーグルト、アイスクリームにかけていただいたり、パンにつけていただいたり、そういったかたちでの提案をしていきたいと考えています」(浅川さん)


 
フルーツビネガーでは、パイオニア的な存在
 
フルーツビネガーでは、パイオニア的な存在

いまから10年くらい前、飲む酢のブームがありました。まず、りんご酢ブームがあり、次に黒酢のブームがやって来ました。ところが、酢は身体にいいと言われても、決して飲みやすいものではなく、なかなか続きません。そこで、健康食品メーカーなどでは、粉末にしたり、カプセルにしたりした例もあったようです。
「自分たちは酢屋なので、発想の転換というか、酢酸発酵はするものの、果汁感のある状態は残しておいて、果汁を足し、調味酢のようなものにしたらどうかと考えたんです」(浅川さん)
内堀醸造は、糖分を酒にする技術、酒を酢にする技術を持っています。そこで、りんご、ぶどう、ラズベリーなど果汁由来の酒をまずつくり、それを酢にして、さらに果汁を加えたらどうかと考え、つくってみたのがフルーツビネガーです。
それにいろいろな味を加えていったものが、内堀醸造のオークスハートのデザートビネガーです。旬をキーワードにして、いちごの酢、ジューシーマンゴーの酢、さくらんぼの酢などをつくっています。
フルーツビネガー、デザートビネガーに関しては、内堀醸造は業界のパイオニア的な存在であるというイメージを持っていただいているようですと、誇らしげな浅川さんです。


 
私たちは微生物とともに仕事をしている
 
私たちは微生物とともに仕事をしている
生物を含む自然は、測りきれない大きなものをわれわれに与えてくれている。それに比べれば、人間の努力なんて小さなものです。
基本は水。人間の身体もほとんど水でできています。私たち人間が、そもそも生きていくうえで、よい水に恵まれるというのがいかに大事なことか。これは、おいしいものをつくれるかどうかということよりも、もっとずっと基本的な話しです。
水の次が、空気の存在。本当はどっちが先かわかりませんが、空気は水よりも直截的に取り入れているので、私や杉江(杉江毅さん・アルプス工場工場長)がどんなにがんばっても、もし空気の質が悪かったら、いい微生物が育たない。いい微生物が育たないと、いい酢もできません。
親しくしているドイツの会社が、イギリスの機械を入れたことがありました。ところが、どうもうまくいかない。イギリスからメーカーが見に行ったら、その会社の壁の向こうにバスの駐車場があって、排気ガスを出す。壁の向こうですよ。それが、こっち側の会社の酢の製造に影響を与えてしまう。
私たちは、微生物と一緒に仕事をしている。この微生物を世界で最初に、私たちに、科学的に説明してくれた人がパスツールなんです。パスツールの本には、空気のことがいっぱい書かれている。パスツールは、微生物が働くのに、空気の影響がすごく大きいということも発見したんですね。
発酵を大きく分けると二つになる。好気的発酵、嫌気的発酵。世界ではじめて、この言葉を使ったのも、やはりパスツールなんです。1860、70年ごろのことです。21世紀の私たちも、発酵に関わる人間は、好気的発酵か、嫌気的発酵かまず関心を持っておるんです。
普通の人から見れば、酢はみんな一緒でしょうけれども、私たちから見ると、あの酢とこの酢は違う。だが、何がおいしいかは、私たちにはわからない。私や杉江は、自分の気持ちにいつわりのない仕事をしたいというのがせいぜいです。
何が正しいかも、私たちにはまだわかっていません。わかってないから勉強中なんで、それでも、いまの気持ちとしては、こういう材料で、こういうやり方をすれば、自分たちの気持ちとしては納得できる酢ができるなというところでやっています。
(談)

 
仕込み水も殺菌していません
 
仕込み水も殺菌していません
アルプス工場の真ん前が、南駒ケ岳です。約3000メートルあります。
工場は標高740メートルです。標高740メートルのところにある酢の工場は、珍しいですよ。
工場を建ててから、長野県庁の方が来て「よく来てくれましたね。この水は、長野県の地域資源ですよ」と言うんですね。私たちは、ここに土地を買って、工場をつくってから、いい水が出るということに気がついた。本当に、私たちは、いい出会いに恵まれていると思います。
水というのは、とてもむずかしいものなんです。
ある地域に行くと、水に鉄分が含まれている。ある地域では、水量は豊かでも水質が気になる。別の地域では、深く掘ると温泉が出てしまう。山に恵まれた長野県でも、そうです。
この部屋から見える範囲は、ぜんぶうちの土地です。これ、気持ちいいんで、もう一回くらい言いたいんですけど(笑)。南駒ケ岳の伏流水が流れている。うちより上流には工場はありません。
だから、杉江(アルプス工場工場長・杉江毅さん)の考えもあって、水は殺菌しません。仕込み水も殺菌していません。
本社工場のある八百津もいいところですけれども、山がない。ここは、すぐそこに3000メートル級の山がある。大きな山があると、その山の神に助けられると実感しますね。
私たちは、より高度、高品質なものをつくってきたつもりだし、明日からもそれに向かっていくつもりです。これは、約束できます。2011年は、多分皆さんが、ほほーっと思うものを紹介していきます。皆さんが納得してくれれば、はじめて、きちんとお話しができることになるでしょう。
そうなれればうれしいね。
(談)

 
だれがつくっているのかが一番大事
 
だれがつくっているのかが一番大事
今日は、私たちの会社へ来ていただいて、どういう場所で、どういう人間が、どうやって働いているのかを見ていただいて、とてもうれしいです。
もちろんそちらへお邪魔して、一生懸命説明することもいいんですけど、だれがつくっているのかというのが一番大事なことだと思うんです。それには工場に来ていただいて、工場長にも会っていただいて、「あれか。まあ、いいかな」(笑)と思っていただければうれしいなと思います。
これからご縁が始まると思うので、私や、杉江(アルプス工場工場長 杉江毅さん)や芝田(営業部・芝田直幸さん)が、この場所で働いているというのを、なんとか紹介していただきたい。
私たち人間は、自然の環境のなかで生きている。私たちには私たちの風土があり、その風土のなかで生かされていて、風土の力を資本というか、土台としてがんばっている。そこをなんとか紹介していただければ、うれしいです。
私たちは、微生物とともに生きています。そもそも人間もそうですが、とくに醸造業の人間は、明けても暮れても微生物とともに生きています。
工場には、顕微鏡で発酵を管理している部署があります。醸造業というのは、何百年も前から、こうやって、手でかき混ぜたりしてやってきましたが、アルプス工場では、木の桶は使っていません。木の桶にもいいところがあるんだけれども、ちょっとどうかなという点もあって、発酵は衛生的にやるほうがいいと思っています。
衛生的にやると、なにがいいかというと、微生物が変化するんです。これ、非常におもしろいです。微生物も、人間と一緒で、いい微生物がどんどん集まるようになる。商売と一緒、商売もいい取引先が集まると、どんどんよくなっていくでしょ。
ただ、熟成は、木の樽を使ったり、ガラスの容器を使ったりします。
これから、杉江が工場をご案内しますけれども、私、会長ということもありますんで、歓迎のご挨拶だけして、言いたいことだけを言って、ほどほどのところで失礼するというのが会長の役割ということで(笑)。
(談)

 
素晴らしい環境と、それを維持する努力
 
素晴らしい環境と、それを維持する努力
アルプス工場は南駒ケ岳の裾野と言うよりも、むしろ中腹と言いたいところにあります。標高は740メートル。南駒ケ岳が約3000メートルですから、この標高差が、豊かな伏流水を生み出しています。
また、高度740メートルの澄んだ空気、自然豊かな環境がよい微生物(酢酸菌)を育んでいます。
アルプス工場の敷地は31,344坪(うち約11,000坪が井戸用地や松林)で、建築面積は3,600坪、延床面積が3,900坪という偉容を誇っています。工場より標高の高いところ、つまり伏流水の上流には、工場がありません。よって、仕込み水すら殺菌せず、工場には水道が引いてありません。
その恵まれた環境で働く27名の社員の平均年齢は約33歳です。
工場の大きさの割りに従業員が少ないのは、「働くのは微生物だからです。私たちは、その微生物の管理をするだけ」という、アルプス工場工場長・杉江毅さんの言葉で納得できます。
とは言え、いい環境に甘えているだけではありません。アルプス工場では、いい環境をできるだけ維持する工夫も、最大限しています。
たとえば、合わせ酢に使う昆布、かつお節のダシ粕、米の粕などは乾燥処理し、米ぬかとともに地域農家へ肥料として出し、自然に戻しています。
酢の製造工場で問題になる酢酸発酵排気は、酸気を回収してから排気していますし、排水は活性汚泥方式で処理し、処理後の水は工場内ビオトープ(生態環境池)を通してから河川へ放流するという念の入れ方です。
また、濃度の高い排水は嫌気処理し、その際の発生ガスを燃料に、ガスボイラーで蒸気をつくり、排水の熱交換や乾燥機等で使用しています。
工場から出る副産物の利用については、信州大学と共同研究プロジェクトを立ち上げています。
素晴らしい環境と、それを維持する努力。いかにも微生物とともに生きるという哲学を持つ内堀醸造らしい行き方ですね。

 
「水 空気 微生物」
 
「水 空気 微生物」
醸造業は、微生物と人間との協働作業です。
米酢の場合、第一段階はアルコール発酵。ここでは麹菌が活躍します。第二段階の酢酸発酵では、酢酸菌がアルコールを餌にし、酢酸をつくります。
内堀醸造の企業理念「酢造りは酒造りから」は、まずいい酒をつくらなければ、いい酢もできないということを表しています。
ところで、内堀醸造では、麹菌、酢酸菌はどう手当てしているのでしょうか。
「麹菌は麹屋さんから買っていますが、酢酸菌は弊社のものを使います」と、総務部課長の浅川和也さん。
同社のものと言っても、もともとは、空気中にあるものです。
空気の澄んだ地を求め、標高740メートルのところに工場をつくったのも、いい水を求めただでなく、いい空気も重要な要素でした。
このことを同社では、「内堀醸造の存立基盤」と表現し、それは「水 空気 微生物」だと言っています。
酢酸菌は、空気中にあるものを培養するわけですが、発酵と腐敗は紙一重です。そこで、人間にとっていい菌、酢の味がよくなる、香りがよくなるといった菌をまずスクリーニングし、それを培養します。培養は、種酢というものを使って、必要のあるたびにしています。
菌は変異するものです。そこで、モニタリングし、つねに最高の菌が居続けているように、万全の注意のもとで培養しています。

 
ぼくは、内堀会長に惚れたんです
 
ぼくは、内堀会長に惚れたんです
営業部の芝田直幸さんが、ジェルメロードの取材スタッフを茅野駅まで送ってくださいました。
なんともドラマのある企業だなというのが、取材班の共通の印象でした。
会長がオート三輪で営業に回っていたことや、そのときのお客の言葉で、味の安定を図ることを考え始めたこと、それ以前に、酢の醸造一本に家業を絞ったこともドラマのエピソードのようです。それと、企業理念「酢づくりは酒造りから」や、存立基盤「水と空気と微生物」など、企業哲学がしっかりと存在する企業であるという印象もありました。
会長の談話も、とても深いものでした。
運転をしてくれた芝田さんが、もうじき茅野駅に到着するというころ、ぽつりとつぶやきました。
「ぼくは、内堀会長に惚れたんですよ。この人の下で働きたいと思って、それで入社させてもらった」
岐阜県加茂郡八百津町の本社・工場には、「お局さま」(芝田さん)のような人もいて、「平均年齢を上げることに貢献している(笑)ほか、ぼくたちに、いろいろなことを教えてくれる」(芝田さん)と言います。
世代間のコミュニケーションも、とてもうまくいっている印象です。
ひとつ、びっくりするお話しをしましょう。
内堀醸造では、平成10年にISO9001、平成16年にISO14001を取得し、JASおよび有機JASの認定工場にもなっています。ところが、インタビューに応じてくださった方々の「誰ひとり」そのことには触れていません。
そんなことは当たり前だからなのでしょうか。それとも、もっと言いたいことがほかにたくさんあって、そんなことまで手が回らないのでしょうか。
芝田さんの運転する車は、取材スタッフの乗る予定の列車のぴったり10分前に、茅野駅に到着しました。