生産者STORY

 
岩倉製茶STORY
 
有機にこだわるお茶屋さんの、自慢の逸品
岩倉製茶 代表 岩倉恵正さんに聞く
静岡の岩倉製茶から、待ちに待った新茶が届きました! 岩倉製茶は、知る人ぞ知る有機栽培にこだわったお茶が人気のお茶屋さん。栽培から加工、そして販売まで、すべてを手がける全国でも珍しいお店。そんな岩倉製茶の代表・恵正さんにお茶づくりにかける想いを聞いた。
 
有機JAS認定を取得した、人と地球にやさしいお茶屋さん
 
有機JAS認定を取得した、人と地球にやさしいお茶屋さん
「今年の新茶は、なかなかいい出来ばえですよ」
そう言って大きな笑顔で迎えてくださったのは、岩倉製茶の岩倉恵正さん。青々とした茶畑を背に満足げな表情だ。
静岡県といえば、北部には富士山や赤石山脈といった3000メートル級の山々がそびえ、東部には温泉地帯としても名高い伊豆半島がある。豊かな自然に恵まれたこの静岡の名産品は、と言われたら、だれもがまっ先に思い浮かべるのは静岡茶だろう。
現在、全国の茶葉生産量のうちの、40パーセント以上を占め、堂々の一位を誇る静岡茶。その歴史は、1241年(仁治2年)に聖一国師が宋から種子を持ち帰り、生まれ故郷の静岡市に撒いたのが始まりと言われている。そして明治維新後、牧之原の大規模な開拓によって、明治・大正時代、静岡茶は、生糸とならぶ輸出品となった。
そんな静岡県内の中央部に位置する島田市の、東光寺という山に、岩倉製茶の有機栽培の茶畑はある。およそ26坪のこの地を使い、岩倉さんがお茶栽培を始めたのは、いまからちょうど20年前だった。当時を振り返り、岩倉さんは語る。
「もともとこの土地を開墾したのは私ではありません。別の生産者さんがここでお茶栽培をしていたのですが、なかなかうまくいかなかったようで、私が引き継いだんですね。それで私もいろいろ挑戦してみたんですけど、やはりうまく育たず、最後の手段として無農薬栽培に転換したんです」
現在では有機JAS認定も取得している岩倉製茶。名実ともに人と環境にやさしい茶葉を生産しているが、彼らの有機栽培の挑戦は、ここから始まった。

 
創意工夫を繰り返してきた、岩倉製茶の歴史
 
創意工夫を繰り返してきた、岩倉製茶の歴史
いまでこそ、お茶の生産から小売りまで、すべてを手がけるお茶屋さんとして名が通っている岩倉製茶だが、意外にも長い間、岩倉製茶は茶葉栽培に踏み込んでいなかった。
昭和10年に製茶工場として創業した。創業者は恵正さんの曾祖父。創業後しばらくの業務は、生産者さんの茶葉の加工を行なっていた。その後、祖父、父の時代も主な業務は製茶だったという。それから、本格的に生産者としての業務を主体にしたのは、4代目である恵正さんが始まりだった。
「つまり、岩倉製茶がお茶をつくり始めて、まだ30年しか経ってないということなんです」と恵正さんは言う。そして、有機での茶葉栽培は、開始してから今年で20年目を迎える。
「有機栽培を始めてからというもの、ほかの生産者さんの茶葉の加工は受けなくなりました。有機栽培の茶葉の場合、異なる茶葉の混入は、これまで以上に深刻な問題になりますからね」
有機栽培を始めてから、委託での製茶は受けず、自社の茶葉だけを生産、加工、販売するようになった岩倉製茶。恵正さんはいま、社長として生産から製茶、さらには小売りまでを一手に手がけている。そんな岩倉製茶にとって、大きな転機になった有機栽培の手法について、恵正さんに尋ねた。
「農薬は一切使っていません」
岩倉製茶の有機栽培の茶葉は、農薬を一切使わない。天然由来の、茶葉にやさしい農薬も一切使わないんですか? そう尋ねると恵正さんは即答した。
「ええ、何も使いません。木自体がたくましいので、虫を寄せ付けません」
なるほど。ちなみに肥料は上げますよね? そう尋ねると「はい、それは上げます」。しかし、その次に続く言葉が、またも私たちを驚かせた。
「肥料は、魚のカスと海藻を、合わせて粉末にしたものをやってます。この肥料で窒素とリン酸はとれるのですが、茶葉づくりに欠かせないカリウムが足りない。なので、植物のヤシの灰を加え、カリウムを補っています。」
山で育つ木に海の栄養、その意外な組み合わせは、どなたから教わったのか、そう尋ねると、恵正さんはこう続けた。
「いえ、自己流です。これまでも唐辛子をつかった防虫剤や、木酢などいろいろ試しましたが、それだと有機JAS認定が取得できないんです。なので、それらの使用は中断し、JAS規格の範囲内でできることは何かと考えた結果、先ほど申し上げました魚かすなどの肥料に落ち着いた、というわけです」
自身で考え、創意工夫を繰り返し、現在の栽培方法に着地した恵正さん。そうして強く、たくましく育ったお茶の木は、なんと水やりさえも必要なく育つという。
「この木はね、雨水だけで育つんです。水を過剰にやらないことで、少しでも水があれば吸おうとし、結果、根が強く張ります」
恵正さんが考え、工夫しつくりあげたお茶の木は、みずみずしい生命力を放っている。

 
摘みたてのお茶を加工する、機能的で清潔な工場
 
摘みたてのお茶を加工する、機能的で清潔な工場
いま、まさに収穫のときを迎え、その葉を青々と茂らせている恵正さんのお茶の木。しかし、ここまでたどり着くのには、文字どおり苦難の連続だった。とりわけここ数年は、次から次へと問題が勃発したという。
「まず、霜の被害が痛かったですね。そもそもお茶というのは、日中の寒暖の差がある方がおいしく育ちます。ですが、寒すぎると防霜ファンを回しても、霜を防ぎきれません。ここしばらく霜の被害があったので、それはつらかったですね」
そして、なんといっても大打撃だったのが、東日本大震災に伴う原発事故による、放射能被害だ。
「あれには本当に弱りました。ですが、今年はもう早々に放射能検査を受けたのですが、全部クリア、出荷して問題なしとの結果でした」
本当にあのときはホッとしました、と言って恵正さんは笑顔を見せた。
「それでね、ここの有機の新茶を、今朝摘んだんですよ。もうそろそろ、その茶葉を蒸し始めるところです」
岩倉製茶の製茶工場は、販売店に直結している。販売店から一歩工場に足を踏み入れると、お茶を蒸す暖かい空気に包まれた。その湯気を吸うと、これまでにかいだことのないほどの爽やかな香りが、鼻孔に充満する。
工場は、こじんまりとはしているものの、こざっぱりと清潔な印象を受けた。工場に入り、左に目をやると、大きな機械がある。その機械のなかを色鮮やかな茶葉が、ベルトコンベアのようなラインに乗って、次から次へと流れてきた。
「あそこに流れている葉っぱは、今朝摘んだばかりの茶葉です」
そして流れてくる茶葉を選別しているような、2人の女性がいる。
「彼女たちは、枯れ葉などの混入物がないか、目視で検査をしています。このあとも検査はありますが、まず第一関門として、彼女たちの検査が入るんですね」
そうして蒸された茶葉は、丁寧に揉まれ、乾燥され、ピンと伸ばされ……という作業を経て、完成する。栽培から加工、さらには販売まで、すべてを手がける岩倉製茶だからこその、新鮮なお茶のでき上がりだ。

 
有機だからできる、意外なお茶っぱの楽しみ方
 
有機だからできる、意外なお茶っぱの楽しみ方
工場をひとまわりしたら、恵正さんの奥様が「揚げたてなので、熱いうちにどうぞ」と、新茶の天ぷらを出してくださった。乾燥させていない、生のままの葉っぱをそのまま揚げたものと、同じく生茶葉と桜えびのかき揚げ。茶葉というものが、こんなにも甘く、香り豊かだということにはじめて気付かされる、それほどに、これまでのお茶の概念を覆す味わいだった。爽やかな風味に、ついつい手が止まらない。
「摘みたての生の茶葉じゃなければ、こんなに香りが出ないんです」と奥様が語るこの天ぷらは、まさにいまの時期、ここでしか食べられない逸品だ。
天ぷらだけでなく、自宅でも簡単にできる、おいしい緑茶の飲み方、食べ方を奥様から教わった。
「あまりに熱いお茶だと渋みが出てしまうので、甘みを出すため、70度くらいの、少しぬるめのお湯がいいですね」
お湯の温度を下げるには、一度茶葉を入れずに急須にお湯を入れ、そのお湯を、湯のみに一度注ぎ、そのお湯を茶葉を入れた急須に再度戻す。すると、ある程度熱が下がり、お茶を淹れるのに適温になるという。
「それと、水出しで飲んでもおいしいんですよ」
水出し緑茶とは、茶葉を入れたポットにお水を入れ、冷蔵庫で一晩冷やしたもの。新茶でつくると、新茶特有の甘く、爽やかな味わいが口に広がる。
「熱を加えないので、カテキンが出てこない。だから渋みが出ず、甘いお茶になるんです」
さらに、有機栽培でつくった茶葉に関しては、出がらしも料理に使えるという。
「香りも残っているので、ドレッシングをかけていただいてもおいしいんですよ。まさにお茶は捨てるところなし、ですね」

 
お茶本来のおいしさを伝えたい
 
お茶本来のおいしさを伝えたい
お湯で淹れて飲むだけでなく、生の茶葉の天ぷらから水出し、さらには出がらしまで。安心安全な有機栽培のお茶は、そのおいしさを余すところなく存分に楽しめる。
有機という昔ながらの製法で茶葉づくりをしている岩倉製茶。有機にこだわる恵正さんには、「お茶本来の味を知ってほしい」という思いがあるという。
「やっぱり本物の味を知ってもらいたいですね。お茶離れが激しいと言われているいまだからこそ、本当のおいしいお茶をお届けすることで、お茶という文化が皆さんに愛されたらいいなと思っています」
恵正さんら岩倉さんご一家が丹誠込めて育てた岩倉製茶のお茶。恵正さんが自信作だと胸を張っておっしゃった今年の新茶が、日本にあるお茶という世界の豊かさを教えてくれるでしょう。